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仕舞う【しまふ】

  • 執筆者の写真: Yuichi Seshimo
    Yuichi Seshimo
  • 6月23日
  • 読了時間: 4分

我が家では煎茶は狭山茶を愛飲している。

狭山のとある茶園の煎茶で、私たちが東京時代からお付き合いのある茶舗から推薦していただいたことが

始まりで、10余年になる。

信州に移住しても変わらず送っていただいていて、大切な友人に贈ってもとても喜ばれていた。


ふくよかで旨み、甘みが奥深く、一服すると幸福感に包まれる。

私たちの舌はそれほど豊かではないけれど、五杯の煎茶をして言い当てられる自信はある。

白磁の茶碗に淹れると美しい色味が際立つ。夏も冬も色味は変わらないのに、夏は涼しげに、冬は温もりのある色味に感じる。


茶舗の解説はこのような感じ。


少し葉肉の厚い狭山茶を、狭山火入れという高温で火入れする伝統技術により独特の香ばしさを引き出し、力強いインパクトのある味に仕上げた深蒸し煎茶。


埼玉県入間市で百年以上狭山茶の生産を続けている双木さんが伝統の火入れ技術で作り出しているお茶です。焼き菓子やにもよく合います。


引用:狭山園 



爽やかな煎茶



その煎茶、先日我が家で最後の一服となった。

そろそろ新茶の案内が来るかもしれないと思いながら、茶筒を覗き込んでいたものの、案内は新茶のことではなく、出荷がなくなるとの案内だった。


茶舗の大女将のお話だと、理由は茶園のご主人(生産者)が急逝されたことだそう。

狭山は他の茶葉の産地と違い、茶園ごとに火入れを行って出荷する茶園が多いとのこと。他の産地、例えば静岡では茶葉は一度集荷された上で火入れをして出荷しているとのこと。


くだんの茶園は、後継者の方がおらず、また急なことだったので茶園の承継も行われないまま「廃業」になるという。大女将の「廃業はあまりにも残念だし、茶畑には新茶が芽吹いていたんです」の台詞は茶舗としては複雑な思いだったのだろうと思う。



広がる茶畑

茶園ごとに火入れをしているということは、同じ狭山茶でも微妙に違う出来栄えになるということ。ということは贔屓の煎茶が手に入らなくなってしまったから他の狭山茶を・・・という話でもないということになる。言い換えれば、茶の名産地でありながら微妙に違う味合いの茶葉を探せる奥深さみないなものもある反面、大袈裟な表現をすれば一子相伝の「危うさ」みないなものも隣合わせであること意味するのだろう。


私が好むと「discontinued(略してディスコン):製造中止や出荷停止を意味する」になるという不名誉なジンクスがある。だから、極力あれが気に入っている、これを愛用していると言いにくい部分がある。


理髪店、車の修理工場、洋服の仕立て屋。冗談にならないくらいにそんな経験をしている。

私は自分で言うのも憚られるが、あちこちに馴染みを持つような浮気をしない。だから、いざそうなると一瞬にして「難民」になってしまう。愛用にしても贔屓にしても明確な理由があって、苦労して出会っているので再び探すことは同じく苦労する。


15年近く前、私の髪を切ることが「最後の鋏」になった理髪店の店主は、手際良く髭を剃りながら



「ああ、それは男と女と一緒だね」



といって笑ったことがる。

一途に愛した愛された男女が離れ離れになると、同じように愛せる人に出会うには時間がかかる。

そして、人はその間に得てして苦々しい経験をしてしまうものだ。そういうことが言いたいの?私は恨み節にも似た拡大解釈を言い返した記憶がある。


悔しいからこれは言わなかったけれど、良い職人、良い品、良い腕に出会えたということだし、それは無くして初めて実感するものだとも思ったわけだ。



仕舞う。



広辞苑では、仕舞うというコトバは


1. ㋐続いていた物事を、そこで終わりにする。終業する。「仕事を—・う」. ㋑商売などをやめる。廃業する。たたむ。「営業不振で店を—・う」. 2 終わりになる。終わる。


とある。

仕舞う方と仕舞われる方。仕舞う立場になったことはないが、仕舞われる方はなんとも切なく、抜けない棘のようにズキズキとしたものを引きずる。理髪店の亭主はそこまで深読みしたとは思えないけれど、ああ何となくその心持ちは「男と女」なのかもしれない。目の前から消えてからその後遺症にさいなまれるの様は。




我が家の茶事情に戻る。


我が家の茶筒には残念なことに、もう一服分しか茶葉は残っていなかった。

同じ煎茶を味わうことは二度とないけれど、幸にして茶舗は健在だ。私は大女将も若女将も茶の目利きは信頼しているから、時間がかかってもいずれ絶品の煎茶を探してきてくれるはず。それを気長に待つという名目の上で浮気のひとつかふたつをしてみようとも邪な気持ちになったことを告白しておく。


急須一杯分しかなかったので妻には申し訳ないけれど、私が最後の一服を堪能した。

甘みが、だの、旨みが、だの言っていた割には、その一服は妙に苦味があったような気がする。



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