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  • 執筆者の写真Yuichi Seshimo

浅間南麓の古民家

小諸の浅間南麓で家を預った。

僕たちが暮らし、STAGEWORKSもある通称「schwarze Hütte(黒い小屋)」から歩いてすぐの場所にある。


この家は175坪の敷地に平屋建の母屋+三棟の納屋で構成されている。

記録上では母屋が建てられたのは大正14年。齢99年の大ベテランの家だ。

家主は若い頃に小諸を離れ、現在は静岡で生活基盤を築いている。老齢になり、このまま空き家にしておくわけにはいかないということで、いわゆる相続物件ということになる。




古民家の外観



家主は静岡から墓参のついでに風を通したり、草を刈ったりしてくれていたが、荷物はそのままだ。

空き家になって久しいから、家の中に残されたのは基本は先代さんの品々だ。当然、多くが昭和のまま、いくつかは平成のまま時間が止まっている。


カラオケセット、ラジカセ、足踏みミシン。鏡台。花柄の綿布団。インダストリアルなテイストの扇風機。専用木箱に収まったアイロン。ブリキ製のバケツやちりとり。どれも今は自分の身の回りにはないものの、懐かしさを感じるものばかりだ。カレンダーは平成のままだが、ゼンマイ仕掛けの壁掛け時計は当然とまったままだがゼンマイを巻き直すとすぐにコチコチと時を刻み始めた。


撮影もしなくてはならないし、建物の状況を把握しなくてはならないので、とりあえず僕たちの休みを使って片付けることにしえn川

奥座敷


床の間のある6畳の和室。

北側には黒斑山、浅間山が望めるこの家一番の部屋。サッシの内側にある障子は中央にガラスを配した凝ったデザイン。古い家の興味深いところは、武家や豪農といったいわゆる名家ならいざ知らず、農業を生業とする人たちが暮らすような一般的な家にも関わらずこうした凝った建具が使われているケースがままあることだ。建てた人がご健在ならインタビューのひとつもやってみたいところだが、ご健在どころか現在の家主でさえわからないことだらけなわけで、そこが面白いのかもしれない。



縁側


南側の縁側廊下。

当然のことながら陽当たりがよい。


この家よりももっと年季の入った家だったりするとサッシがなく、いわゆる「濡縁」があったりする。

サッシの代わりに板戸があって、板戸を取り外して部屋と庭の境界となるスペースになっているが、僕個人は濡れ縁は好きだ。障子を開け放って庭の匂い、風、陽射しを実感できるなどということを贅沢な心地だと思うから。濡れ縁が減り、縁側廊下が増えてきたのはやはり心地よさよりも、冬の寒さ、夏の暑さとの兼ね合いなのではないかと思う。サッシがある縁側廊下が暑さ、寒さの緩衝帯になって室内を快適に保てるからなのではないかと。ただ、それでも暑さ寒さにしかめっ面をしても向き合っていることに価値があるなどと屁理屈を述べそうな僕である。



掘炬燵のある居間


居間の8畳。

玄関や台所から一番近い部屋で、中心に掘り炬燵がある。

ほぼ間違いなく家族団欒の中心地であり、出掛ける人を見送り、帰る人、訪ねる人をを出迎える。

台所で作られた食事を囲むのもここだったはずだし、各部屋へのアクセスもいい。


僕は家を預かった時に、こうやって今は人影もない家の中で当時暮らしていた人たちの様子を想像するのが好きだ。そうして、今だったら、僕だったら。という想像を重ねてみるのはもっと好きだ。新しい住人になるかもしれない人たちに紹介しながら似たような会話があると幸せになる。




台所


さすがに年季の入っている台所。


古い家の台所はなぜか北側にある。

よく、こういった家を案内すると、なぜこんな寒い場所に台所があるのか聞かれる。

明確な理由はないけれど、当時は料理を楽しむという感覚は少なかったから、陽当たりや眺望のよい場所に配置する感覚がなかってのではないか。他にあるとすれば、ひんやりとした北側に配置することによって食材の鮮度が少しでも落ちないような工夫があったとか。。。僕はそんな風に答える。


この家の台所は西側に面している。

陽射しは差し込むし、窓を開ければ長閑な田浦が見える。


台所の脇には広めの勝手口があり、奥には納戸もある。

だから、ここを土間にしてしまって、丸テーブルのあるあたりにアイランドキッチンにしてもいい。

あるいは、薪ストーブをおいてもいいかな、などと想像、もはや妄想の暴走がとまらない。



さて、そろそろ。


この家の特徴のひとつは「建具がきちんと開け閉めできる」こと。

なんだ、そんな低次元なことをと思われそうだが、古民家や旧家の類は「開け閉めできない」確率はとても高いので、特徴にもなるというわけだ。襖や戸板に代表される建具は上部の鴨居と下部の敷居の間をスライドするもの。鴨居と敷居は水平で平行であることが大原則。古民家や休暇は長年の劣化や歪みできちんと開け閉めできなくなっているものが多い。この家はそれがないということが、ひとつの評価基準。どれだけ雰囲気がよくても、この部分に「厳しさ」があると修繕するのも費用が掛かってしまうものだから。



僕は、常々「古民家」や「日本家屋」といった表現を微妙に使い分けている。

リノベーションという言葉が出回り始めた時、リフォームとの違いはなんなのか?という議論があって、ご丁寧に国土交通省が基準なるものを公表したことがあるけれど、古民家というものの明確な基準はない。だから、こんな基準で表現を変えている。


◎築年数:戦前(1945年)

◎往時の姿がどれだけ残っているか(50%)

◎ロールバック(後退復帰)が可能かどうか


建築当時は趣があっても、建築技術や建材性能は今ほどハイスペックではなかったわけで、そこで暮らす人にとっては厳しい側面もあっただろうから、時代とともに少しずつ「手を加えて」今の姿になっている。僕のところにやってくる古民家を探しているような人の要件は、できるだけ快適に、かつ趣のある。というものが主流。だから、古民家として紹介するには快適さ、具体的には設備を一新し、暖かく、涼しい環境を程にれつつも、往時の趣をどれだけ取り戻せるか。といった判断が大切だと思っている。


そういうことを考えると、この家は「古民家」だと言える。

だから、この家を紹介する時は「浅間南麓の古民家」と紹介することにするつもりだ。


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