東村山の家
設計・監理 石井秀樹建築設計事務所
計画地は東京郊外のベッドタウンにあり、戸建て住宅やアパートが立ち並ぶ古い住宅街である。本計画は80坪の敷地に、50代のご夫婦と愛犬のための住宅を建築する計画である。
ご夫婦からの要望は極めて明快であった。二人だけの生活なので、家の中でのプライバシーは必要無く、ただ外部とのプライバシーをしっかりと確保して、家の中で自由な生活を楽しみたい、とのことだった。生活を便利にする機能的な要望は一切無く、むしろプリミティブな機能だけが要求されている。これは純粋に空間の自由さを獲得するための計画である。空間に与えられた機能が人の行動を規定するのではなく、住人の自由な選択によって場の意味が変わる、そんな空間が相応しいと思った。
自由な空間とは、無目的な行動を受け容れ、自由な選択を可能にする空間、それは街路のようなものだと思い浮かんだ。街路では食事をする人や段差に座って本を読む人がいれば、木陰で休んでいる人もいる。子供や犬が走り回って遊んでいたりもする。人がその時々に応じて場を選択し、そこに意味を与える。この自由さを住空間で実現できないかと考えた。そこで、街路のように連続した変化を有し、様々な行動を誘発する空間要素が鏤められた、そんな多様性を持つ空間を意図した。季節や時間によって表情が移り変わる二つの雑木林の中庭、それを巡る8の字の回遊空間を基本構成とし、床仕上げの変化、床段差、天井高の変化、明暗の差など空間要素の組み合わせによる多様な性質を与えた。機能や空間を強く規定しがちなキッチンや浴室も、連続する空間の中にさりげなく配置し、機能と空間の関係を薄め、あくまで空間の性質が場の選択の理由となる状況を創り出した。
施主が日々新たな場面と出会い、そこに空間との多様な関わりが生まれた時、真に自由な空間を獲得したと言えるのかもしれない。
●場所:千葉県安房郡 ●主要用途:週末住宅 ●家族構成:夫婦 ●構造工法:W 造 ●建物規模:地上2階
●敷地面積:396.81m2 ●建築面積:145.32m2 ●延床面積:121.87m2