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古民家リノベ @ 信州の古民家

「住み継ぐ」

私たちがお預かりした家。

私は、家を預かることになったとき、会いに行き「根掘り葉掘り」聞く。ひたすら話を聞く。

今回も、いただいた住所を頼りに会いに行った。

対応してださったのは老夫婦。

その家は老婦人の生家だという。老婦人の記憶を基に整理をすると130年前にはすでに家はあった。

130年前。「そりゃあ、勝海舟生きていましたよ。夏目漱石だって、森鴎外だって。。。」

老夫婦は目を丸くされたが、私は少しだけ歴史に明るいのだ。

「こんな状態だからどうにもならないですよね」

確かに見る人によっては「こんな状態」だろう。

傾き、崩れ、破れているのだ。並の仲介人、いや、まともな仲介人なら預かったとしても「解体更地」を前提にするだろう。別に、怠惰だと言っているわけではない。「時間がかかってしまうから」そうせざるを得ないという意味だ。

私は、例によってこの家の歴史や老夫婦との関わりなど「根掘り葉掘り」聞いた。

老婦人が子供の頃、ここから歩いて隣の集落(といっても歩けば半日はかかる)へ出かけたこと。

嫁いでからは、仕事で東北各地で暮らしたこと。信州に戻ってから、一室に親戚の女性が間借りしていたこと。その女性はタバコを吸い、欧米の開放的な文化に傾倒していたこと。今は暮らしていないけれど、生まれた家であるから思い入れはあること。他にもいろいろと。​

壊すのはいつでも、できる。

だから、もうどうにも見つからないまでは、130歳以上のこの家を「住み継ぐ」人を探すこと。そのためにお預かりすることにした。

130年の古民家というキーワードはインパクトはある。

今はちょっと古い家ならば「古民家」として売り出す傾向にある。個人的にはそんな風潮に異論はあるが、この家は正真正銘の古民家なのだ。ただし「こんな状態」ではあるが。

新たな「継ぎ手」となるOさんは、相次ぐ見学者の中で、初めて家族で訪れた人だった。

関東から、子供の小学校進学を機に移住される予定だという。

住み継ぐ。

130年齢を超えるこの家は、正真正銘の「古民家」である。

この家が建った時代は、幕末の風雲児、勝海舟も生きていたし、福沢諭吉、夏目漱石然り。

芥川龍之介や宮沢賢治に至っては誕生した年だ。これを古民家と言わずしてなんと言う。

と威勢の良いことを言ってはいるが、私のお預かりする古民家は往々にして「草臥れている」

多分に漏れず、この家も傾き、崩れ、剥がれている。場所によっては、外なのか、内なのかも定かではない。それでも、130年と言う重ねてきた「時代」には、芳醇な奥行きと、環りゆく哀愁すらある。

所有者の老夫婦からは、時間をかけて老夫婦とこの家の物語を伺った。

老婦人はこの家で生まれ、東へ西へ「歩いて」出かけた。疲れ果てて戻った時、家の灯りにホッとした話。今でこそ名残すらないが、地域の神社のお祭りで参道の両脇に軒を連ねる出店が何よりも楽しみにだったこと。嫁いで夫婦となり、仕事のため東北各地を回っていた時代のこと。この家の一室に親戚の女性が居候していたこと。その女性が欧米の開放的な文化に憧れ、壁に欧米に関する切り抜きを貼っていたこと。家とそこで暮らす人たちにはそれぞれ物語があるが、この家の物語がそれだ。

新たに住み継ぐOさんは、若い。子供もいる。

子供が小学校へ進学するタイミングで関東から移住してくることになっていた。

それまでの家の物語は幕を下ろし、再びOさん家族の物語の幕が上がる。

​第二幕は

このころは、ちょっと古ければ「古民家」などと云う風潮がある。古民家というものの概念が確立されていないのだから仕方のないことだが、古民家を名乗るのはどうかというものもが多い中で、この家は紛れもない古民家なのである。

精華町の古民家 Seikacho
精華町の古民家 Seikacho

1. 工事費のこと

 


まず、工事費がいくらかかるのか?
中古物件をリノベーションする際は、既存の内装を剥がしてみないとわからない、ということがある。精華町のケースの場合は、まだ物件を購入する前だったので十分な解体を行うこともできず、また古民家という特殊な物件ということもあり、一般的なリノベーションより不確定要素が多かった。
そこで、施工会社の協力のもと、腕利きの大工と調査。現状で出来る限りの試算と、想定される問題点を徹底的に洗い出した。さらに工事中にどうしても見積時以外の追加工事が必要になった時も想定し、基本設計やコンセプトを変えることなく減額可能な、幅を持たせた設計を行った。後で追加請求が発生することだけはないよう、頭をひねり続けた。

 

 2. ローンについて

 


古民家を改装するためのローンを組もうとする。
希望としては、リフォームローンではなく住宅ローンを組みたい。
だが、資産価値は土地のみで、建物は(銀行的には)ゼロと判断され、それを担保に住宅ローンを組めるところは限られた。実際に「精華町の古民家」ではローンの専門家に、銀行と建築主の間に立ってもらうことで、粘り強い交渉によって最終的に一般の住宅ローンで資金調達が可能となった。やはり特殊な案件でも担当者レベルでの話し合いをじっくり行えば、不可能ではないし、そういった案件が増えつつある昨今、今後はよりスムーズにいくようになるだろう。

 

 3. 実際の工事

 


土地と家屋を購入し、さあ着工!
床や天井を剥がすと、やはりいくつか問題点が明らかになる。「精華町の古民家」の場合、裏山との位置関係や土地の地下水位の関係で基礎の周りに水が集まりやすい地形であったようで足元の木材がすべて痛んでおり、総取り替えとなった。

精華町の古民家 Seikacho
精華町の古民家 Seikacho

4. 現場での創意工夫


「精華町の古民家」では既存の土間部分には、主要な構造である太い梁が低く設置されており、これを排しすべてバリアフリーフロアにすることは不可能だったので、既存土間を利用した開放的な土間空間をつくることにした。
土間を横切って、トイレや水回りに行くことになるので、日本庭園にあるような飛び石を並べて、そこを渡れるようにしようという話になった。さっそく裏山に入り手頃な石をいくつか探し(裏山も購入した土地の一部)運び出して、実際に並べながら、レイアウトデザインを検討。


また建築主の奥さんの実家でかつて使用されていた、「はたおり機(丹後ちりめん)」の陶器製の丸い輪っかのパーツを土間に埋め込むことにした。これは、実際に奥さんやお子さんが埋め込む作業を担当、新しい土間に昔の道具の味わいがミックスされ、愛着の持てる、家族にとって大切な空間になった。
他にも、天井や縁側に使われていた木材の一部など、剥がした既存建物の材料を出来る限り流用し、古いものの再利用による歴史の継承とコスト削減とを同時に目指している。

精華町の古民家 Seikacho

5. そして完成

 

依頼から、金額の調整、そして工事と、トータルで1年半にわたるロングランもいよいよフィナーレ。完成して、地元の住民の方をご招待して、オープンハウスを開催した。2日にわたり、のべ100名以上の方々が来場され、中の空間を体験して頂いた。子どもの頃にこの家で遊んだことがあるというおばあちゃんが、古く朽ちつつあった民家が、新しくリノベーションされたことで再び人が住めるようによみがったことに、感動し涙を浮かべられていたのが印象的だった。

精華町の古民家 Seikacho
精華町の古民家 Seikacho
精華町の古民家 Seikacho
精華町の古民家 Seikacho

8. 暮らしが始まる。

 

竣工してから「精華町の古民家」に何度かおじゃまする機会があった。
工事の時は手つかずだった庭も、少しずつ手入れされている。薪ストーブのために、薪が割られて乾燥して保管されている。夏の昆虫採集に沢遊び、田んぼの手伝い、シソを収穫してシソジュースをつくり冬になれば雪で遊び、ストーブの炎を家族で眺めつつ、お餅を焼く。都会のくらしとは、ちがった古民家での生活が、今日も営まれている。

9. 京都にセカンドハウスを


「東京に住んでるんですが、京都にセカンドハウスを持ちたい。」
最近、このような話を聞くことがよくある。精華町のように京都の郊外の古民家を改装したり、京都らしい市内の町家を改修してセカンドハウスにする。サクラの醍醐寺や、紅葉の東福寺の庭園巡り。祇園祭りや五山送り火を眺めたり、雪景色の鞍馬・大原も良いだろう。夢は膨らむばかりである。「果たして実現は可能なんでしょうか?」。いざ、その夢のリアリティを漠然と考えると、とたんにトーンが落ちる場合が多い。しかし、上記の精華町のケースのように、お金のこと、設計のことなど、きちんと順番に具体的に整理して一つひとつ解決していけば、現実的なヴィジョンが見えてくる。

 

 

10. 京都の物件事情


「京都の町家」が手に入るのだろうか?そんなに市場にでているのだろうか。
京都には空き家となっている町家が、実はたくさんある。空き家になっている理由は、単に受け継ぐ人がいなかったり、新たに建築するには条件が悪すぎたり(いわゆる建築不可)。どうしようもなく、放置されているものが多い。また、本格的・伝統的「京町家」にこだわらないのであれば昭和の町家(これだって、十分魅力的である)、古いビルなどリノベーションすれば、立派に甦る物件は多数存在するのだ。また町屋などの場合、改装して残すということに対して、京都市から補助金が受けられるケースが多い。知恵と工夫によって、計画がぐっと現実的になってくるし、どんどん取り壊されていってる京都の伝統的な町屋を救う手助けにもなる。

 

 

11. 京都に住み始める。


念願のリノベーション町家のセカンドハウスが完成する。関東から京都まで、新幹線で3時間足らず。京都ならば、自動車よりも徒歩や自転車、公共交通機関の方が移動しやすい。京都を堪能したら、大阪や神戸、奈良に足を伸ばしてもいい。ホテルや旅館に宿泊するのも旅の醍醐味であるが、住まう拠点がある、と言うのは旅の意味や感じ方をとても変えてくれるだろう。

 

​Posted by Masaharu Tada & Shojiro Endo  Photo by Kohei Matsumura

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