いまやっている団地リノベの計画『34509』 日々新しいことに直面して、とてもエキサイティングなプロジェクトだ。 窓からの眺望の変遷についてたどってみた。
『気になる物件は、いくども足を運んでみてください。 一番最初はひとりで。 心に響く何かがあれば二度目は大切な人と行ってみてください。 そして、土地や建物だけでなくその周りを散歩してみてください。 家ってその空間だけでなく、周りを流れる風だったり、緑だったり。風景だったり。 そういうものと共鳴して居心地の良さを構成しているものだったりします。 そんなものを漠然と感じてみてください。』
これはぼくが請け負うプロジェクトでお施主さんに最初に掛ける言葉だ。 それなのに、34509の舞台となる団地は手探りな条件下で購入した。 団地そのものが大規模修繕に入っていて窓という窓は足場と幕で覆われていたのだ。スケジュールを確認したらこの先半年近くも足場ははずれないという。
眺望も、風の流れもほとんど把握できない環境だったけれど直感が「これ!」と言ったのでそれに従うことにして契約した。クライアントの物件探しのサポートではなく、自分たちのプライベートな目的を持った物件だったから許されたことだ。
購入時はこんな感じだった。事前に方角と地図のトレースで概ねの景色のイメージは掴んでいたものの不安がないわけではない。

購入して三ヶ月はこの状態。 34509に即席のテーブルと椅子を持ち込んでここで仕事をする時間を増やす。 カーテンいらずの自由な空間ではあるものの、眺望を重要視するぼくにとっては物足りない日々だ。それでも晴れた日に幕越しに見える多摩川と丹沢の山々のシルエットを感じることは出来たし、大きく波打つ幕は風の通りがよいはずだと期待させてくれた。いつの間にか仲良くなった初老の隣人とも出会うたびに足場と幕が外されることを楽しみにする会話をするようになった。

そしてある晴れた朝、「幕」だけ先に撤去される。 足場越しとはいえ初めて見る窓からの風景に喜びを感じる。 欲を言えば太閤秀吉の小田原征伐の際に周りの木々を一気に伐採することで一夜城として城に籠もる北条勢を狼狽させた石垣山城よろしく足場も幕も同時に撤去して欲しかった。 もちろん、作業をする側からすれば「何を勝手な」と言われそうだが。。。

そして、しばらくした朝。 ついに足場が撤去される。またしても「ある朝」という感じ。 日干ししていたラグすら取り込む間もなく足場は撤去されていく。 決して器用とは言えない手先であること、高所恐怖症であるぼくには到底出来ない素早い作業である。それゆえに手際の良い彼らを心の底からリスペクトせずにはいられない。

これが34509からの眺望。 季節も変わり富士山は白化粧している。手前には高尾山や陣馬山、左手には丹沢山系の山嶺が見える。これからの季節は空気が引き締まり、朝夕を中心に富士山は見られる日が続く。眺望などどうでもいいという人もいるだろうが、ぼくはそうではない。眺望はあとから手に入れることはできないと考えるし、日々の暮らしの中にも少なからず影響を及ぼす要素だから。手前に見える欅も銀杏も紅葉樹だ。色が染まり葉吹雪が今から楽しみでならない。
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