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城ヶ崎海岸の家

設計・監理 石井秀樹建築設計事務所

本計画は東京住まいの5人と犬1匹の家族ための週末住宅、そして将来は夫婦の終の住処としての住宅の計画である。

敷地は城ケ崎海岸へと連続する桜並木の街道沿いに開発された分譲地の一画に位置する旗竿敷地である。この地域は南には駿河湾、北には大室山を抱く風光明美な国立公園地域として指定されている。しかし、計画地は北側と南側隣地に既に住宅が建ち、東側の隣地も分譲予定で、周囲には永住目的の住宅が多く建ち並ぶ。週末住宅という響きから連想されるような雄大な海や山並を臨む大自然の中の敷地ではなく、終の住処としての利便性にも配慮して選ばれた郊外型の分譲地である。
それでも、建て主にとっては普段の生活から抜け出してリフレッシュするための週末住宅であり、自然の恩恵を体で感じたいという期待を込めて購入した土地である。
そこで、ただ遠くの美しい景観として眺める自然ではなく、この場の空気としての自然を全身に感じられるような、敷地と一体化した空間を創り出すことを意図した。
そこで、大地に大きな屋根を架けただけで、その場の空気そのものを領域化して、敷地と一体化した空間を創り出す事はできないだろうか、という漠然としたイメージから計画を始めた。
屋根は自然公園法により規制された範囲一杯に架けて、できるだけ地形に馴染んだ形態であることが望ましいと考えた。そこで、敷地西側の大きな丘と東側の小さな丘に挟まれた中央の谷、それぞれが緩やかな傾斜で連続していた造成前の敷地形状、および、敷地北の桜並木から南へ向かって緩やかな上り傾斜が続いていく敷地の起伏になぞらえて、屋根の形態を導き出した。アプローチ側から旋回しながら上昇して行くその形態は、建て主の「道路から見た時に別荘に来たと実感できる、気分が高揚するような外観にして欲しい」との要望にも合致する結果となった。
しかし、大きな屋根を架けただけの体育館のようなガランとした空間では退屈だ。
そこで、この単純さに秩序ある多様性と変化を与える事で、敷地と一体となった空間の本質を損なわずに、表情豊かな空間にすることはできないだろうかと考えた。
多世帯で利用することを想定して3つの個室(2つの寝室と客間)を設ける事が条件として与えられていた。これに加えて水廻りや駐車場といった必要な住機能をそれぞれ閉じた空間としてブロック化して、各ブロックの性格と敷地の特徴を考慮して大屋根の下に配置していった。桜並木から敷地へのアプローチが伸びる北側には駐車場ブロック、雑木林が植生する小高い丘に向いた西側には客間ブロック、造成前には小さい丘となっており、現在は平坦に整地された東側には水廻りの上に2つの寝室を重ねた人工の丘のような二層分のブロックを配置した。
大屋根の下にブロックを分散して配置した結果生み出された有機的なスペースは、敷地と一体となった空間の本質を損なうことなく、また建物の機能にも縛られる事無く、多様性と変化に富んだ表情豊かな空間となった。
刻々と変化するブロック群の隙間から見える空や緑、差し込む光、通り抜ける風を全身で体感できるこの住宅は、敷地の自然をより豊かに、そして鮮明に感じる新たな場を敷地の中に創り出している。

●場所:静岡県伊東市 ●主要用途:週末住宅 ●家族構成:夫婦 ●構造工法:W 造 ●建物規模:地上2階
●敷地面積:855.20m2 ●建築面積:112.27m2 ●延床面積:128.78m2

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