団地で暮らす。リノベーションの魅力
建築家とつくる家 建築家の選び方 stageworks ステージワークス 理想の空間
「団地の暮らしってどうなんだろう?」
団地の一室を実際に購入してリノベしてみるという計画をたててみました。
日々のプロデュース業とは少し趣旨もスピード感も違うプライベートプロジェクトとして。
舞台は『富士見町団地』という築50年の古参団地。

竣工した1967年を調べてみると、日本は第二次佐藤内閣、アメリカ合衆国大統領はJFKの跡を継い
だリンドン・ジョンソンだ。角界では横綱大鵬が全盛期を迎え、漫画界ではあしたのジョーや天才バカ
ボン、ルパン三世といった名作が次々と連載を開始した年。ちなみに1974年生まれのぼくは生まれ
てもいない。
総戸数は876戸。
7ヘクタールの敷地に35棟の団地が建つ。
立川市の西部にあり、団地の西隣地は昭島市。
南には新奥多摩街道が東西に走り、その南を多摩川が流れる。
北側は立川崖線が同じく東西に走る。崖線はグリーンベルトの様に武蔵野の森の姿を残す。
その立川崖線沿いに流れる残堀川は鯉が泳ぎ、水鳥が羽を休め、桜並木が美しい。
棟によっては南に丹沢山系の山並みと富士山。
西方には奥多摩の山々が遠望できるロケーションだ。

魅力ある開放感
団地の大きな魅力のひとつは棟間隔が大きく確保されていること。
おかげで豊かな緑と高く抜ける青空が提供される。
様々な巨木が木陰をつくり、団地を抜ける風を受けて葉を揺らしている。
近代型の分譲マンションだとそうはいかないだろう。
団地とマンション思考の差ではない。
そんなスペースがあるならば、もう一棟建設して販売するからだ。
デベロッパーとてボランティアではないのだから無理からぬことだろう。
団地の森は劣化ではなく、成長する森として存在している。

こころ豊かな人たち
私たちの暮らす市内のマンションはとてもドライだ。
良くも悪くも都市型のコミュニケーションだと言える。
たった30戸のマンションでも半数は名前と顔が一致しない。
「こんにちは」(誰だろう・・・)
そんなことに慣れてしまっているから、団地のコミュニケーションには驚く。
「わたしは○○号棟の○○といいます。よろしくね」
ちょっとした集まりに参加するだけでも憶えられないくらいの自己紹介をして頂けたりする。
(以降、ぼくは小さな手帳を持参して忘れないうちに名前と特徴を書き込むようにした)
人と話すことが嫌いな人でなければ、こんな成熟したコミュニティはとても魅力があるはずだ。

「自分たちの」の第一歩にはこの上ない団地。
よく、家って人生最大の買い物っていいますよね。
たしかにそんな時代はあったし、今でも多くのひとにとっては最大の買い物。
団地は自分たちの好きなライフスタイルを形にするキャンバスとしてはこの上ないです。
下世話なお話かもしれないけれど
「団地は安いから」
多くの建物が5階建てなのにエレベーターはないし、駅近なんて物件はめったにない。
築年数だって20年から50年といったものばかり。
物件検索サイトで真っ先に候補から脱落しそうな物件が「団地」だったりする。
「リノベーションに予算を充てる」
考える価値が売却するときの価値ではなく、心地よい暮らしとするなら「団地リノベーション」は
とても魅力ある選択かもしれない。

良いことばかりでもない。
日本中、多くの団地が同じ課題を抱えている。
そのひとつが「空き家」
富士見町団地の空き家率は10%に近いとも言われる。
団地に限ったことではないが、空き家が増えると価値は下がり、活気は薄れ、治安の悪化も招く。
団地の方々は冗談めかして44歳のぼくを「未成年だよ」という。
それほど団地で暮らす人々の高齢化が顕著だということだ。
でも、こうも考えられるのです。
10%が空き家なら10%の人々を招き入れることができる。
そのためには団地の抱える様々な課題を立体的に検討して、魅力ある一手を考えなくてはならない。
様々な方面から再生に向けての提案がなされているけれど、決定打には程遠い。
『そこで暮らす住民が主体的な役割を担っていない計画だからなのではないか。』
今回、ぼくたちが団地リノベーションをしようと考えた最大の理由がそこにある。
一室から始めるリノベーションは団地全体に化学反応を起こせるか。
34509リノベーションプロジェクトにご期待下さい。
